息子の健が自分に異常ともいえる関心を抱いているのは彼女も常々気づいていました。
大学生になった息子が、母親をまるで異性をみるかのような顔つきでみるようになったのは、この数年のことでした。
それまではまるで友達同士のように人も羨む仲のよさで、外を歩くときも二人、買い物も二人、カフェなどにもいっしょによく入ったものです。
―――彼女が家の階段をあがっているとき、息子が下の床からじっと、スカートの中をのぞいていたことがありました。
それからも、浴室の前に彼の気配がずっとしていたことがあったり、箪笥の中から彼女の下着がなくなっていて、あとで息子の部屋のベッドの下からでてきたこともありました。
そんなことは男の子なら一つの通過点ぐらいに彼女も最初は思っていました。
男は自分の一番身近な異性、母親を初恋の相手に選ぶものだと何かで読んだ記憶もあります。
しかし、今回の件では、さすがに彼女も辟易となりました。
夫が出張中のことです。
夜中に、寝室に彼が忍び込んできたのです。
彼女はスタンドの明かりをつけました。
「どうしたの、いま時分」「眠れなくって………」彼はベッドの端に腰をおろしました。
「しばらく、いいだろう」「いいけど………」「母さん最近、僕に冷たくなったね」「そんなことないわよ」「昔はよく僕を、ハグしてくれたじゃないか」「そりゃあの頃は。
健もいまはりっぱな大人なんですもの、あの頃のようにはできないわ」「どうして」「だって」「僕、母さんが好きなんだ」「私もよ」「母さんを女として好きなんだ。
母さんも、僕を男として好きになってくれよ」彼も苦悩しているらしく、その告白は辛そうでした。
「無理いわないで。
あたしたちは親子よ」「だけど僕は、母さんの肉体をみて、興奮するよ。
これはいけないことなのかい」彼が母親の肩に手をのばしてきました。
迷ったあげく彼女は、そのまま動かずにいました。
健は彼女の肩をしばらくなでまわしてからこんどは、ネグリジェの薄い布地のうえから、乳房にふれました。
「やめて」「もう僕は、自分が抑えられないんだ」健はうなだれると、固めた拳で自分の脚を叩きました。
「ちょっとまってくれる」彼女は枕元の引き出しから、錠剤の入った包装容器をとりだすと、そこから赤い錠剤を2錠、掌にのせました。
「これは前に不眠症で悩んでいた時に病院で処方してもらった睡眠薬なの。
一錠でもいいんだけど、二錠のむわ」怪訝そうに見つめる健に、彼女は畳みかけて、「私が眠っている間に、あなたの思いを遂げなさい。
あくまで私は、何も知らずに寝ていたということにして」
言うなり薬を口にいれ、コップの水で飲み下した母をみて健は、母がそれなりに覚悟を決めているのを知りました。
10分もたったころ、寝息がきこえだし、母は寝入った模様です。
彼はそっと顔を近づけ、スタンドの淡い光に浮かび上る母の、丸みをおびた顔に長い間みとれていました。
それからなおも10数分まってから彼は、母が完全に寝入ったのを確かめると、薄手の布団をその体からはがしとりました。
ネグリジェを取る前に、母の足をもちあげ、膝で立たせました。
太腿の付け根を覆う下着がのぞいた時、彼は思わず生唾をのみこみました。
彼はそして、思いきって母親の下着を太腿から膝、膝から足首まで、一気にひきずりおろすと、一旦ベッドから下り、壁の照明のスィッチを押しました。
ぱっとひろがった明るい光の中に、母の全身が照らしだされました。
最初に目についたのは、母の片足に絡まった下着でした。
それはとても淫ら感じがしました。
彼はベッドに再びあがると、母の両膝をつかんで、左右に拡げました。
目の前に、母親の陰部があらわれたのをみた彼は、自分が意外に落ち着いているのを知ってかえって当惑しました。
もっと衝撃的なものを思い描いていた彼ですが、そこにみたものは皮膚に絡みつくまばらな陰毛と、襞と襞に挟み込まれた裂け目と、その中の曖昧に影に閉ざされた内部でした。
あれほど自分を魅了し、抗いがたい力でひきつけた母の秘密がこれだとわかったとき、健はなにか騙されたような気持ちになりました。
健はまだ、母の両膝をひろげたまま、照明の明かりにてらしつけられた秘所に、じっと目を凝らしていました。
母を裸にしたら、中からひょっこり女が現れたとでもいえばいいのでしょうか。
もうそれは母ではなく、ひろげた脚の奥で男をまちうけるもう一つの口をあけた女という生き物でした。
そしてこれこそ、母が睡眠薬を飲んだ理由ではなかったかと、いまになって彼は思いはじめました。
健が追い求める母は眠りの世界に隠れてしまい、いまはただ生々しい女の肉体がそこにあるだけでした。
彼は重々しげにため息をつくと、母に再び下着をはかせました。
そしてネグリジェの裾をおろし、布団をかけて、そっと部屋から出て行きました。